試験研究は今 NO.183

先端技術開発研究(水産孵化場)のこれまでの成果

1.性比のコントロール
 魚類の場合、性によってその経済価値が大きく異なる場合が多く、そのため、性のコントロール、特に、雌へのコントロールが非常に有用な技法になっています。魚類の性のコントロールは様々な方法によって行われていますが、サケマス類では性・ホルモンによって性転換した雄(性転換雄)を用いる方法がとられています。サケマス類の性決定機構はXX-XY型性決定機構といわれていますが、これは雌がXXの性染色体をもち、雄がXYの性染色体をもっているような型の決定機構で、本質的にはヒトの場合と同じです。雄は精子を作る際に減数分裂という特殊な分裂をし、染色体を半減させますが、ごの際、性染色体も半減してX染色体を持ったX精子とY染色体を持ったY精子を作ります。雌も同じように減数分裂をして染色体を半減させますが、雌はX染色体を持った卵、一種類しか作りません。X精子がX卵子と受精すればXXの雌が、Y精子がX卵子と受精すればXYの雄が生まれてくる訳です。
 性転換雄を用いる方法はこの決定機構をうまく利用した方法で、XXの染色体構成を持った遺伝的雌に、性ホルモンによって精巣を作り出させる技術です。つまり、雌から雄へ性転換した雄を用いる方法なのです。この雄は減数分裂で一種類のX精子しか生産しないので、この雄の精子を使うことによってすべて雌の群が得られる訳です。水産孵化場ではニジマスの他にサクラマス、ヒメマス、ギンザケ、ドナルドソンについて性転換雄の作出に成功し、全雌群の作出とともにその保有、維持にあたっています。

2.不妊化技術
 不妊化技術とは染色体の倍数化により倍数体を作出し、倍数体のもつ不妊性を種苗に付与したものです。ニジマスの場合、雄の3倍体は成熟するのに対し、雌の3倍体は成熟せずに成長し続けるので大型魚を生産するのに適しています。雌3倍体の作出には性転換雄の精子を用いて受精を行った後に温度処理、或いは加圧処理を行い、雌側の染色体を倍加して3倍体を作出します。サクラマスでも同様に雄の3倍体は成熟し雌の3倍体は成熟しないので、性転換雄を用いて受精し、その後に染色体の倍加操作を行い全雌3倍体の不妊種苗を生産します。
 このように染色体操作を用いで作出した種苗を“三倍体魚等”といい、これらの利用については水産庁がその利用指針をまとめています。この中で“三倍体魚等”の利用についてはその特性評価を行い、認可申請を取ることになっています。水産孵化場も全雌3倍体サクラマスについては平成5年8月に特性評価の確認を取り、その利用については認可がおりています。北海道の内水面に関係する魚種としてはこの他に全雌ニジマス、全雌3倍体ニジマス、全雌ギンザケの種苗生産、養殖に認可が下りています。
 全雌3倍体サクラマスの種苗は内水面連合会が取りまとめた希望数に合わせて水産孵化場が生産し、海面養殖や内水面養殖に利用されています。孵化場では安定した3倍体の生産のための倍加の判定技術の開発や、4倍体魚を利用した新しい方法の3倍体魚の生産についての研究を続けています。

3.精子保存技術
 サケマス類の精子保存は、取り出した精液を耐凍剤を含む希釈液で薄めて凍結します。凍結方法にはペレット法、ストロー法などがありますが、前者がよく用いられています。ペレット法とは希釈精液をドライアイス上に一滴落とし、そのまま凍結したもので凍結後に液体窒素中で保存します。ストロー法とは希釈精液をストロー中に充填し、液体窒素蒸気中あるいはドライアイス上で急激に凍結させその後に液体窒素中で保存したものです。どちらの方法でも凍結の際の温度降下がその後の精子活性に大きく影響を与え、-30℃/分前後の温度降下が比較的よい結果を表しています。保存期間についてはデータ数が少なくはっきりとしたことは言えませんが、他の生物の精子保存の状況から考えると、少なくとも数年間から半永久的な保存には耐え得るようです。このように保存された精子はいつでも利用できることから、遺伝資源の保存のみならず、性転換雄のような有用精子の有効利用や、成熟時期の異なる魚種間での交雑、染色体の倍加技術と組み合わせた異質3倍体等の新しい品種の作出に応用できることになります。

4.これからの取り組み
 先端技術開発研究は平成5年度で終了しましたが、未開発の部分や技術開発に対する要望も高いことから、平成6年度からは新技術開発研究促進事業として再スタートすることになりました。このなかでは性比コントロール技術の導入魚種を拡大し、未開発の魚種での性比コントロールを確立します。さらに、不妊化技術については4倍体魚の利用による3倍体魚の安定生産を目標にその技術開発を行います。4倍体魚の利用による3倍体魚の生産については日本では長野水試が成功しているだけで他の都道府県では成功しておりません。また、精子保存を利用した新魚種開発も行い、耐病性のある飼い易い魚種等、有用形質を持った新魚種作出も試みる予定です。


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